【閉店】55年間、東急本店が我々に提供してくれたモノは何なのか?

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2023年1月31日、渋谷の東急百貨店本店(以下、東急本店)は55年の歴史に幕を下ろした。建物が老朽化していたことに加えて渋谷全体での再開発の背景もあり、閉店後建物は取り壊され「Shibuya Upper West Project」にその跡地が使われる計画だ。同プロジェクトは東急株式会社・株式会社東急百貨店・L Catterton Real Estateの3社により共同で進められる。L Catterton Real Estateは不動産投資、開発を行うグローバル企業で、GINZA SIXの開発に携わったことが記憶に新しい。

東急本店の跡地には地上36階地下4階の複合商業施設が建設され、レジデンスも併設される計画だ。プロジェクトで注目されるのは「暮らしと文化の融合」である。東急本店に隣接する「Bunkamura」はプロジェクトの進行に際してオーチャードホール以外の施設が一時的に休業するが、プロジェクトの完成後には営業が再開される見込みだ。Bunkamuraにはその名の通り、映画館や劇場、コンサートホールといった施設が立地している。我々は渋谷のあの小さな一画で、濃縮された文化的営為を謳歌できる訳だ。すぐ裏手に位置する日本屈指の高級住宅街・松濤に豪勢な邸宅を構え、BunkamuraでBunkaを堪能し、ハイブランドションピングを楽しむ。今ドキこんな暮らしが流行るのか?とも疑問に感じてしまうが、この暮らしに憧れるかと聞かれて、憧れないと答えるのは今のところまだ嘘になる。

出典:2022年7月21日発表の計画概要より引用。
Image by Proloog/Copyright:Snøhetta
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20220721-1.pdf

もちろんデベロッパー3社の掲げるコンセプトは、前述したような「暮らしと文化の融合」という側面だけではない。しかし発表された計画概要を確認すると、やはりラグジュアリーな暮らしと文化を同時に提供することには積極的なようだ。となると、それは東急本店が55年間提供してきたのでは?という疑問が浮かび上がる。やはり高級住宅街・松濤がすぐ裏手に位置するという立地を活用しない手はない、という判断なのであろう。つまり目指すコンセプトが大きく変化しそうにない以上、再開発に至った理由の内訳として、本店の建物そのものが劣化していたことが大きな割合を占めていたのではないかと推測できる。

計画概要を読んでいて見入ったのは「The Sanctuary」と呼ばれる屋上庭園的な空間だ。イメージとしては東京ミッドタウン日比谷の6階「パークビューガーデン」に近いものであろう。計画概要に示された「The Sanctuary」のイメージを下記に引用した。『都会の喧騒から離れ、施設を訪れる人が癒しを感じる緑豊かな空間』を目指しているという。

出典:2022年7月21日発表の計画概要より引用。
Image by Proloog/Copyright:Snøhetta
https://www.tokyu.co.jp/image/news/pdf/20220721-1.pdf

百貨店の定義にもよるのだろうが、宮下公園やPARCOの屋上、原宿の東急プラザなど、屋上に庭園を構えるのが定番になりつつあるのだろう。「百貨店&屋上のプチ遊園地」というハッピーセットはレッドリストに記載されたようだ。

ここからは、閉店に際して筆者が撮影した東急本店の様子をギャラリーとして残しておく。

筆者自身は地下1階の「DALLOYAU」と7階の「MARUZEN & ジュンク堂書店」への思い入れが強い。あの頃、ホワイトデーのお返しに「DALLOYAU」のマカロンを買いに行ったのが懐かしい。当時はスマホなんて持っていなかったから、マカロンにたどり着くまでとんでもない苦労だったことを覚えている。確か必要な数が買えなくて、そのまま自転車で荻窪のルミネまで直行したような…?

「MARUZEN & ジュンク堂書店」には定期的に訪れていた。渋谷の本屋といえば、東急本店のジュンク堂か、マークシティーの啓文堂の二択だった。正直なところ、TSUTAYAやHMVはちょっぴり敷居が高かった。別に恥ずかしくて入れないとか、そういう訳ではないのだが…何となくジュンク堂は居心地が良かった。部屋着のパーカーでも優しく迎え入れてくれるような、そんな感じ。

2023年2月4日放送の『オードリーのオールナイトニッポン』にて若林正恭氏は閉店する東急本店についてコメントを残した。(以下、放送されたトークを抜粋して引用)

「38、9の独身男性を弾くんだよ、渋谷っていう街は。はいー、ここお前が入るとこじゃないって…、でも東急本店だけは受け入れてくれたんだよね。屋上もレストランフロアも本屋さんも。そういう想いがあるから挨拶いかなきゃって・・・
・・・30何階建てのが建つんだってな。何が入るんだろうなぁ。でも弾くんだろうな、おじさんを、どーせ」(以上引用)

人間味が溢れていたというか、言ってしまえば昭和・平成っぽさが残っていたような、そんな空間に人々は惹かれていたのだろう。せっかくだから記念に渋谷に関する2冊の本を買った。

左:東急百年 – 私鉄ビジネスモデルのゲームチェンジ 著者:東浦 亮典
右:変わり続ける! シブヤ系まちづくり 著者:渋谷未来デザイン

最近、日頃の支払いは1%の還元が付くカードで済ませている。QUICPayに対応したこともあり、もはや財布を持ち歩くことも減った。荷物は減るしポイントは付く、実に便利。でもなんとなくこの2冊を買った時、それが歴史に幕を下ろす東急本店に対しての僕なりの感謝の表明と送り出しのように感じたから、ズボンのポケットにiPhoneが入っていたのだけれど、あえてバックから財布を取り出し「あ、ちょうどありそうです」と、久しぶりの現金払いをしてみた。どうだろう、ちょっとは「エモい」んじゃなかろうか?

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